退去時の原状回復費を減らす

1. 先に結論:減額の鉄則5

費用の不安は「内訳が見えない」から生まれます。結論はシンプルで、内訳を“その場で”分解し、証拠で線引きすれば、後払いでも怖くありません。編集部注:当社は退去立会いで「一式見積の分解提示」を標準対応。後払いでも不安なし。

まず用語をそろえます。「通常損耗」は日焼けや家具跡など、通常の暮らしで避けにくい劣化。「過失」はタバコのヤニ、ペットの傷、落下破損など入居者起因の汚損・毀損。「一式見積」は項目や数量が曖昧な合算見積のことです。求めるのは「分解提示」=材料・作業・数量・面積・単価・根拠写真までの分解です。

1つ目。契約書・特約を読む。特に「ハウスクリーニング定額」「喫煙・ペット」「設備の故障時負担」の条項をマーカーで可視化します。定額清掃は別請求のことが多く、交渉対象かどうかの判断材料になります。

2つ目。入居時の写真・動画を証拠として用意。フォルダ名に「日付_部屋名」を付け、壁・床・水回り・ベランダ・建具を最低各3カット。撮影日のわかるデータ(EXIFやクラウドのタイムスタンプ)が有効です。

3つ目。「通常損耗」と「過失」の線引きを知る。日焼け、冷蔵庫の設置跡、家具による軽微な圧痕は一般に通常損耗と解されやすい一方、タバコのヤニ汚れ、無断ねじ穴多数、ペットの引っかき傷は過失または特約対象になりやすい、という基本認識を持ちます。判断が難しい箇所は「原因が生活由来か」「回避可能だったか」で整理します。

4つ目。退去立会いに同席し、その場で内訳を確認。「一式ではなく、材料・作業の単価別にお願いします」「通常損耗に該当するか、根拠と面積を見せてください」と丁寧に依頼。数量(㎡・m・台数)、適用範囲、写真の提示まで揃えば、曖昧さは大きく減ります。

5つ目。一式見積は“分解依頼”+必要なら相見積もり。クロスなら「品番・張替え範囲(㎡)・部分補修可否」、床なら「傷の本数・長さ・補修単価」、水回りなら「部材交換か清掃か」を分けて提示してもらいます。分解に応じない場合は、写真付きで第二意見を取るだけで見積が見直されるケースは珍しくありません。

会話調の事例をひとつ。
「こちらクロス全面張替えで計上です」
「入居時の写真を見ると、この日焼けは当初からです。傷はこの1面の下部だけなので、部分補修の可否を確認させてください。面積と単価も分けて出していただけますか」
「……では1面の下部0.8㎡だけ補修に変更します。作業は半日、材料はこの品番で算定に」
「助かります。清掃は定額分で足りますよね。それ以外は通常損耗の範囲でお願いします」
結果、全面張替え想定から部分補修に切り替わり、負担は約3分の1に圧縮。根拠は「写真」「対象面積」「作業区分」の3点でした。

要は、「契約に基づく線引き」と「証拠」と「その場の分解」。この三点を押さえるだけで、余計な上振れは避けられます。準備と同席の精度が、最終金額を左右します。

2. 退去90〜30日前の逆算準備

要は「契約×証拠×その場分解」で減額の土台が固まりました。ここからは、退去の90〜30日前に“仕込み”で差をつけます。準備が整えば、当日の判断が迷いません。

スケジュールを逆算する

退去日はゴールではなく“締切”です。まず解約連絡(契約の予告期間に沿って)→立会い予約→粗大ごみや廃家電の予約の順で日程を押さえます。自治体の粗大ごみは枠が埋まりやすい地域もあるため、最短枠と持込可否を同時に確認しておくと安全です。立会いは午前に設定すると、追加の内訳分解や写真確認の時間を確保しやすくなります。

契約チェックは“特約マーキング”

契約書と特約のPDF/紙を開き、「定額ハウスクリーニング」「喫煙・ペット」「設備故障時の負担」を蛍光ペンでマーキング。定額清掃が別請求なら“減額対象外”の線引き、喫煙・ペットは“過失または特約対象”のリスクを可視化します。あいまいな文言は付箋に「要根拠提示」とメモし、当日の質問リストに入れます。

証拠整理は“場所×原因”で

入居時の写真・動画を「日付_部屋名」でフォルダ化。壁・床・水回り・ベランダ・建具の5カテゴリで最低各3枚、広角→中景→寄りの順に並べます。修繕履歴(例:水栓交換の領収書)と、傷・汚れの“原因メモ”(生活由来/過失のどちらか)を1行で添えておくと、当日の線引きが速くなります。撮影日の分かるデータ(EXIFやクラウドのタイムスタンプ)も保持しておきます。

不要品の出口は“売る/捨てる/寄付”の三択

大型家具・家電は、売却・適正処分・寄付の三択で早めに仕分けます。価値が残るものは同時買取に回し、残置はゼロに。売れないものは自治体の粗大ごみか、許可業者での処分を選びます。リユース団体への寄付は受取条件があるため、対象品と受け渡し方法を確認しておくと迷いません。

片付けで節約する“同時買取”と“証明性”

同時買取は撤去費の相殺に直結します。無料見積の際、買取可否を同時査定すれば、搬出の手間が一度で済み、現金化分で処分費を抑えられます。処分は「許可番号」「処分ルート」「マニフェストや処分領収書」で証明性を確保。テレビ・冷蔵庫・洗濯機・エアコンは家電リサイクル手続きが必要なので、収集方法とリサイクル券の段取りまで見積に入れておくと安心です。見積は内訳(作業・数量・処分単価・買取額)を分解、支払いは後払い可だと資金繰りの不安が減ります。

会話調の事例をひとつ。
「このタンスとオーディオは処分で計上ですか」
「タンスは買取不可ですが、オーディオは動作品なら買取対象です。搬出は同時に行います」
「では同時査定でお願いします。内訳は処分費と買取額を分けてください」
「承知しました。処分費8,000円、オーディオ買取は6,000円。差引き2,000円のご負担です。家電リサイクルは券の手配も含めて別行で明記します」
「助かります。処分の証明書と写真台帳もください」
同時買取で撤去費を圧縮し、証明書で安心を担保。内訳分解と後払いの組み合わせで、追加請求の不安も抑えられます。

3. 直前1週間〜前日:やること/やらないこと

準備で「契約の線引き・証拠・同時買取と証明性」を整えたら、直前1週間は“やる/やらない”を明確にして当日の分解提示に備えます。

やること(生活汚れの清掃・付属品復元・消臭・養生)

生活汚れの清掃はコスパが高い領域だけに絞ります。キッチンは油膜(コンロ周り・レンジフード外側)、浴室は水垢と排水口、トイレは輪染み、窓サッシとレール、ベランダの排水口を重点に。素材を傷めない中性洗剤やメラミンスポンジ、クエン酸・アルカリ電解水を使い、目立たない場所で試してから本番に移ります。焦げ跡や深い傷は清掃で消えにくいため、無理に削らないほうが安全です。

付属品の復元は原状回復の小さな決め手です。外した棚板・ネジ・戸当たり・引き戸のガイド、エアコンや照明のリモコン、付属の脚や仕切り、取扱説明書は元の位置へ。欠品は“紛失”と見なされやすいため、入居時写真とつき合わせて確認します。

消臭は“無香で整える”が鉄則です。十分な換気、フィルターのホコリ除去、カーテンや玄関マットの洗濯、玄関・収納の乾燥剤で、香りで上書きせず元の匂いを下げます。喫煙やペット臭は負担対象になりやすいものの、強い残臭を抑えるだけで作業範囲が狭まることがあります。

搬出経路の養生は、通路トラブルの未然防止になります。玄関~エレベーターまでの角や床をダンボールと養生テープで保護し、強粘着テープは使用しません。エレベーター養生や台車使用の可否は管理会社に事前確認すると安心です。
TIP:処分が発生する家電は、許可番号・処理ルートを“書類で”提示できる業者を選び、家電リサイクル券の手続きまでまとめて段取りすると当日のやり直しがありません。

やらないこと(素人補修・無断塗装・床ワックス上塗り)

壁穴のパテ埋めやタッチアップは色差・凹凸で余計に目立ち、結果として一面張替え判断になりがちです。無断塗装も同様で、色番不一致が広範囲の塗り直しを呼びます。床のワックス上塗りは剥離作業が追加になりやすく、単価が跳ねます。迷ったら“現状維持で清掃止め”。修繕は当日の内訳分解で、部分補修の可否から相談するほうが得策です。

記録の残し方(清掃前後・キズ・備品)

写真は「清掃前→清掃後」を同じ構図で撮り、タイムスタンプを残します。キズは全体→寄り→角度を変えて3枚、長さが分かるように定規やコインを添えます。備品は“あるもの・戻したもの・不足しているもの”を一覧化し、フォルダ名は「日付_部屋名_対象」。このひと手間で、当日の“通常損耗か過失か”の線引きが速くなります。

会話調の事例をひとつ。
「床、光沢を出すためにワックスを上から塗っておきました」
「剥離が必要で1.5万円の作業になります。本来は小傷補修5,000円で済みましたが、どうしますか」
「それは避けたいです。清掃止めにして、傷は部分補修の単価でお願いします」
「承知しました。では剥離は外し、小傷3か所×5,000円で内訳に入れます」
上塗りを避け、“生活汚れまで”で止めたことで、剥離一式を回避。当日の分解提示で、必要な補修だけに絞れます。

4. 当日:立会いで“その場減額”を狙う

直前準備で「清掃止め・付属品復元・記録」を整えたら、当日は“分解して、その場で減らす”に集中します。内訳が見えれば後払いでも不安は小さくなります。当社は現地で「一式→面積按分」への見直し提案と、分解提示までの同席サポートを行います。

持ち物(その場で根拠を出すために)

  • 契約書・特約の印刷(マーキング済み)
  • 入居時の写真・動画(部屋別フォルダ)
  • 清掃メモ(やった箇所/やっていない箇所)
  • 筆記具・身分証・スマホ(追加撮影用)

確認ポイント(壁・床・水回り・ベランダ・臭い・設備)

  • 壁:傷の“位置と面積”。日焼けは通常損耗の論点になりやすいので、入居時写真で起点を確認します。
  • 床:線キズは本数と長さ。打痕は部分補修の可否を先に質問します。
  • 水回り:清掃で落ちる汚れか、部材交換が必要かを切り分け。パッキンやゴム類は経年の可能性を確認。
  • ベランダ:排水口の詰まり有無。鳥害やサビは建物側管理のケースを念のため確認します。
  • 臭い:換気・フィルター清掃後の残臭レベル。強い残臭のみ範囲限定で対処を提案。
  • 設備:換気扇・給湯・インターホン等の動作確認。自然故障は通常損耗の議論になりやすいです。

伝え方テンプレ(結論→根拠→依頼)

  • 「“通常損耗”の範囲か、根拠と内訳を拝見したいです」
  • 「一式ではなく材料・作業の単価別にご提示ください」
  • 「クロスは部分補修での対応可否を確認したいです」
    上の3文に、写真提示と数量の明確化(㎡・m・台数)を必ずセットにします。総額が曖昧なままの承諾やサインは避け、内訳と写真を受領してから判断します。

見積の見抜き方(3つの必須チェック)

  • 面積按分:クロスや床は「張替え範囲(㎡)」を明記。傷が一面の一部なら、面全体や全室の“巻き込み”を避けます。
  • 残存価値:設備や内装は一般に“経過年数に応じた負担逓減”の考え方があります。築年・交換年を確認し、入居者負担の按分適用可否を尋ねます。
  • 写真添付の有無:各項目に対応する写真(位置が分かる全体+寄り)があるか。無い項目は説明を求め、保留にします。
    加えて、材料の品番・作業区分(清掃/補修/交換)・単価の根拠(数量・時間)まで揃えば、後日の追加が起きにくくなります。

会話調の事例をひとつ。
「こちら、クロスは全面25㎡張替えで計上します」
「入居時の写真では色ムラは当初からあります。傷はこの1面の下部だけで、面積は約3.5㎡です。部分補修の可否と、㎡単価での内訳をお願いします」
「では全面は外し、3.5㎡の補修に変更します。巾木は清掃で対応可能です」
「ありがとうございます。写真を見積に添付のうえ、清掃は定額内で整理してください。支払いは後払いで問題ありません」
結果、全面張替え想定から面積按分の部分補修へ。負担はおよそ6〜7割圧縮。根拠は「写真」「面積」「作業区分」の三点でした。

要は、その場で「一式を分解→数量と根拠を確定→必要箇所だけ対応」。これだけでブレは最小化できます。分解提示までしっかり同席し、証拠と数字で静かに詰めていきます。

5. 交渉・エスカレーション&最終チェック

当日は「一式を分解→数量と根拠を確定→必要箇所だけ対応」で絞りました。ここからは、見積を“文書で整える”ことで、その場減額を確定値にします。

差し戻しメールの骨子(コピペ最小雛形)

件名:原状回復見積の内訳分解・再検討のお願い(物件名/退去日)
宛先:管理会社ご担当者様(CC:オーナー様)

1)事実
・対象:〇〇号室/退去日:YYYY/MM/DD/見積番号:#####
・当日確認の結果、壁の傷は1面下部のみ、床は小傷3か所でした。

2)根拠(契約・写真)
・契約書の特約「定額ハウスクリーニング」に該当する清掃項目は別途請求対象外と認識しています。
・入居時写真および当日写真(面積・位置付き)を添付します。日焼けは入居時より存在します。

3)依頼(内訳・再検討)
・「クロス全面張替え一式」は、傷部0.8㎡の部分補修可否を確認のうえ、材料・作業・数量・単価で分解ください。
・床の小傷は「補修3か所×単価」の提示をお願いします。
・清掃は特約分での対応可否を明記願います。

4)期限
・YYYY/MM/DD(〇営業日)までに写真添付の再見積をご返信ください。後払いでの精算を想定しています。

添付:契約・特約(該当箇所マーキング)、入居時写真、当日写真台帳

相見積もりと第三者相談の使い方

まずは管理会社→オーナーの順に文書で依頼し、写真付きの内訳分解を揃えます。分解に応じない、一式のまま、根拠写真が無い—このいずれかが続く場合は第二意見を。見積書の第二意見は無料。写真台帳とともに再見積します(後払い)。数量・面積・作業区分が一致していれば、差額の論点が明確になります。それでも折り合わなければ、消費生活センター等の第三者窓口に“資料一式”を持参して相談します(契約・特約・見積・写真台帳・メール往復)。

FAQ(よくある詰まりどころ)

  • 敷金で相殺?
    敷金は精算時に「負担額からの充当」が一般的です。見積が確定していない段階での全額充当や超過請求には同意せず、内訳分解と写真確認後に計算すると安全です。
  • 立会いなしと言われたら?
    鍵預かりや不在対応は可能ですが、「写真付き報告書」「内訳分解」「材料品番・面積・単価」の事前合意を条件にします。オンライン同席(ビデオ通話)での現地確認も提案すると齟齬が減ります。
  • 入居時写真が無い
    代替として「築年・設備交換年」「日焼けや劣化の一般性」「残存価値の按分」を資料化し、原因が生活由来か過失かを切り分けて主張します。不明な箇所は『不明』と記し、面積を限定して協議します。
  • 喫煙・ペットの落としどころ
    特約があれば優先されやすい領域です。まず臭気レベルを下げた清掃実施を提示し、範囲限定(部屋単位・面積按分)と方法限定(清掃→部分補修→交換の順)で合意形成を図ります。

会話調の事例(差し戻し→第二意見→確定)

「見積の清掃一式2.5万円とクロス全面25㎡が計上されています」
「特約で清掃は定額とあります。当日の写真では傷は1面下部0.8㎡です。部分補修の単価でお願いします」
「一式のままでお願いします」
「では写真台帳を添えて第二意見を取り、結果を共有します」
(第二意見)「清掃は特約内、クロスは0.8㎡補修12,000円、床小傷3か所×5,000円で十分です」
「管理会社様、第二意見の内訳を添付します。面積・単価の整合をご確認ください」
「承知しました。清掃は特約内に整理、クロスは部分補修へ。合計は当初から▲42%となります」
“写真+面積+特約”で、全面張替えと清掃一式を回避。数値の根拠がそろうと結論は早まります。

最終チェックリスト(送信前・サイン前の確認)

  • 特約はマーキング済み/立会い同席の記録あり
  • 一式見積は「材料・作業・数量・単価・面積・写真」で分解依頼済み
  • 清掃は“生活汚れまで”で止め、剥離や再塗装の自己判断をしていない
  • 不要品の出口(売る/捨てる/寄付)は確定し、同時買取の可否も確認済み
  • 写真台帳(清掃前後・傷の全体/寄り・備品有無)を添付できる
  • 支払いは後払いの段取りを確認し、差額が出ても整合できるようメールの往復を保存

結局、交渉は「事実→根拠→依頼→期限」を淡々と回すだけです。分解された数字と写真台帳、そして後払いの安心装置があれば、余計な上振れは止められます。

この記事を書いた人

野尻 嘉昭

こんにちは!株式会社かめの幸カンパニーの野尻 嘉昭です。

「変わっているね」とよく言われる我が社の名前は、亀のように永く続くビジネスと『6人』の幸せを願う思いから命名しました。私たちは、千葉県印西市を拠点に、不用品撤去業務を主に手がけています。15年間以上の経験をもち、松戸店、新宿店という実店舗での相談も受け付けています。業界で実店舗を構えるのは珍しいかもしれませんが、私たちのサービスの透明性と顧客の安心感を大切にしてきました。

私が特に心掛けているのは、お客様、地域住民、社員、その家族、そして協力会社とその家族、この6つの要素を大切にすること。これらを大事にしてこそ、私たちのビジネスが亀のように永く続くと信じています。

私の経験や知見を通じて、皆さまに役立つ情報をお届けします。どうぞよろしくお願いいたします!