親の介護が始まる前に。40代娘が今すべき『実家×自宅』のダブル整理②

第2章:【実家編】親を傷つけない整理の進め方

親との対話術

実家の片付けで最も難しいのが、「親を説得すること」です。

「こんなに溜め込んで!」「もう使わないでしょ、捨てなさいよ」

そんな言葉を投げかけた瞬間、親は心を閉ざします。そして、「あんたに何が分かるの」「まだ使えるのに」と、頑なに拒否するのです。

なぜ、親は捨てられないのか?

それは、モノへの執着ではなく、「自分の人生を否定されたくない」という思いがあるからです。一つ一つのモノには、親の人生の記憶が刻まれています。それを「ゴミ」扱いされることは、自分の人生を「無駄だった」と言われるのと同じなのです。

NGワード集

まず、絶対に言ってはいけない言葉を確認しましょう。

  • 「こんなに溜め込んで!」→ 親を責める言葉
  • 「全部捨てよう」→ 親の人生を否定する言葉
  • 「もう使わないでしょ」→ 親の判断を否定する言葉
  • 「私が困るから」→ 自分の都合を押し付ける言葉
  • 「ゴミばっかり」→ 親の大切なものを貶める言葉

これらの言葉は、親との信頼関係を一瞬で壊します。

OKフレーズ集

では、どう伝えればいいのか?親が心を開くフレーズを紹介します。

1. 「もしもの時に困らないように、一緒に整理しようよ」

親を責めるのではなく、「一緒に」というスタンスが重要です。「あなたのためではなく、私たち家族のため」という伝え方が、親の心を動かします。

2. 「大切なものを、大切に残したいから」

「捨てる」という言葉は使わず、「大切なものを選ぶ」という前向きな表現にします。親は、自分の大切なものが守られると感じると、安心して協力してくれます。

3. 「お母さんが転んだら心配だから、廊下だけでも片付けたい」

「安全のため」という理由は、親も納得しやすいポイントです。「あなたの健康が心配」という愛情を伝えることで、親も心を開きます。

4. 「通帳とか保険証とか、どこにあるか教えてくれる?何かあった時、探せなくて困るから」

これは非常に効果的なアプローチです。親自身も、「確かに、子どもが困るかも」と気づくきっかけになります。

5. 「このアルバム、すごく懐かしい。この時のこと、教えて」

思い出話を聞きながら整理を進めると、親も楽しい気持ちで参加できます。そして、「この写真は残そう」「これは焼き増ししてあげようか」と、自然に選別が進みます。

切り口を変える:3つの説得パターン

親のタイプによって、響く言葉は変わります。以下の3つのパターンから、あなたの親に合う切り口を選びましょう。

パターン1:【防災】を理由にする

「地震や台風の時、この荷物が倒れてきたら危ないよ」 「避難する時、この廊下じゃ逃げられないよ」

近年の自然災害の増加を背景に、「防災」は親世代にも響く理由です。特に、東日本大震災や豪雨災害を経験した親世代は、防災意識が高まっています。

パターン2:【相続】を理由にする

「遺品整理って、すごくお金がかかるんだって」 「兄弟で揉めないように、今のうちに大事なものを教えてほしい」

相続トラブルを避けたい、子どもに迷惑をかけたくない――。その思いは、多くの親が持っています。特に、兄弟姉妹が複数いる場合、「平等に」「円満に」という親の願いを活用しましょう。

パターン3:【私たちのため】を理由にする

「お母さんの大切なもの、私が引き継ぎたいから教えて」 「孫に見せたいから、昔の写真を整理したい」

親は、自分のものが次の世代に受け継がれることを喜びます。「捨てる」のではなく、「引き継ぐ」という視点で話すと、親も前向きになります。

ベストタイミング:いつ話すか

整理の話を切り出すタイミングも重要です。

おすすめのタイミング

  • 年末年始・お盆の帰省時:家族が集まり、ゆっくり話せる
  • 親の誕生日や敬老の日:「長生きしてほしいから」という愛情を伝えやすい
  • 大掃除の時期:「ついでに」という自然な流れで
  • 近所や知人の介護・相続トラブルの話を聞いた時:「他人事じゃない」と実感しやすい
  • 親が「最近、物忘れが増えた」と自覚し始めた時:親自身も不安を感じているタイミング

避けるべきタイミング

  • 親が疲れている時、体調が悪い時
  • 家族が喧嘩した直後
  • 親の大切なものを勝手に捨てた直後(信頼関係が崩れている)
  • 冠婚葬祭の直後(感情的になりやすい)

一度に全部やろうとしない

そして、最も重要なのが、**「一度に全部片付けようとしないこと」**です。

親にとって、長年住んだ家を大きく変えることは、大きなストレスです。一度に大量のものを処分しようとすると、親はパニックになり、拒絶反応を示します。

「今日は玄関だけ」「今回は廊下だけ」

少しずつ、親のペースに合わせて進めることが、結果的に最も早く、スムーズに整理が進む方法なのです。

優先順位別・実家整理リスト

実家の片付けは、「どこから手をつけるか」が重要です。

一度に全部やろうとすると、途中で挫折します。そこで、優先順位をつけて、段階的に進めましょう。

以下、3つの優先度に分けて、具体的な整理リストを示します。

【最優先】命と財産を守るもの(今すぐ着手)

まず最初に取り組むべきは、**「緊急時に必要なもの」**の確認です。

親が倒れた時、認知症が進んだ時、亡くなった時――。これらのタイミングで「どこにあるか分からない」と、家族全員が困ります。

チェックリスト

□ 健康保険証・介護保険証

  • 場所:           
  • 備考:通院時の持ち出し場所も確認

□ 診察券・お薬手帳

  • かかりつけ医:       
  • かかりつけ薬局:      
  • 服薬中の薬のリスト作成

□ 銀行通帳・キャッシュカード・印鑑

  • 銀行名:      支店名:      
  • 銀行名:      支店名:      
  • 銀行名:      支店名:      
  • ※複数ある場合は全てリスト化

□ 年金手帳・年金証書

  • 基礎年金番号:       
  • 受給開始年月:       

□ 生命保険・医療保険の証書

  • 保険会社名:        
  • 保険種類:         
  • 担当者連絡先:       

□ 不動産の権利証・登記簿

  • 所在地:          
  • 名義人:          
  • 住宅ローンの有無:     

□ 遺言書・エンディングノート

  • 有無:           
  • 保管場所:         
  • 作成年月日:        

□ 緊急連絡先リストの作成

  • かかりつけ医:       
  • ケアマネージャー(いれば):
  • 親戚(兄弟姉妹):     
  • 近所の人(鍵を預けている等):

実践のポイント

これらの情報は、「親と一緒に」確認しながらリスト化しましょう。

「お母さん、もしもの時に困らないように、大事なものの場所を教えてくれる?」

そう聞けば、多くの親は協力してくれます。そして、確認した情報は、専用のファイルやノートにまとめ、家族で共有しましょう。

おすすめは、「緊急時ファイル」を1冊作ることです。クリアファイルやバインダーに、以下をまとめます。

  • 保険証・診察券のコピー
  • 通帳の表紙のコピー(口座番号が分かるもの)
  • 不動産関係書類のコピー
  • 緊急連絡先リスト
  • 服薬リスト

このファイルを、実家と自宅の両方に置いておくと、いざという時に慌てずに済みます。

【次優先】安全な生活空間(3ヶ月以内)

重要書類の確認が終わったら、次は**「親の生活空間を安全にする」**作業に移ります。

高齢者の事故の8割は、自宅内で起きています。つまずき、転倒、転落――。これらを防ぐための整理が、次の優先課題です。

動線の確保

□ 玄関

  • 靴が散乱していないか
  • 段差に手すりがあるか
  • 新聞や郵便物が溜まっていないか
  • 傘立てが倒れやすくないか

□ 廊下

  • モノが置かれていないか
  • 電気コードが床を這っていないか
  • 夜間の足元灯はあるか
  • 幅60cm以上の通路が確保されているか(車椅子対応)

□ 階段

  • 手すりはあるか(両側にあるのが理想)
  • 照明は十分か
  • 滑り止めはついているか
  • モノが置かれていないか

□ トイレ・浴室への動線

  • 夜中にトイレに行く経路は安全か
  • 脱衣所に余計なモノがないか
  • 浴室マットは滑らないか

転倒リスクのあるモノの撤去

□ 床に置かれた電気コード類 → コードカバーで固定、または配線の見直し

□ めくれた絨毯・カーペット → 滑り止めテープで固定、または撤去

□ 脱ぎっぱなしの衣類・スリッパ → 定位置を決める、脱ぎっぱなし習慣の改善

□ 低い位置の家具(座卓、座椅子) → 立ち上がりやすい椅子・テーブルに変更

□ キャスター付きの家具 → 固定するか、キャスターを外す

期限切れ品の処分

□ 食品

  • 冷蔵庫の中身(賞味期限切れ)
  • 戸棚の乾物・調味料(数年前のもの)
  • 防災用の保存食(期限切れ)

□ 医薬品

  • 使用期限切れの薬
  • 飲まなくなった処方薬
  • 昔の湿布・目薬・塗り薬

□ 化粧品・日用品

  • 開封後3年以上経った化粧品
  • 固まった洗剤
  • 使わない洗剤・シャンプーのストック

使っていない部屋・スペースのモノ

□ 客用布団・来客用食器 → 実際に年1回以上使っているか確認。使っていなければ処分か寄付

□ 古い家電 → 壊れたまま放置されているものは処分

□ 物置・納戸 → 中身を全て出して、1年使っていないものは処分対象

□ ベランダ・庭 → 使わない植木鉢、壊れた物干し竿、古い自転車

実践のポイント

この段階では、「親の安全」を最優先に進めます。

「これ、つまずいて危ないから、ちょっと移動させていい?」 「この電気コード、引っかかりそうだから、固定しようよ」

安全を理由にすれば、親も納得しやすくなります。

また、この段階で処分するモノは、**明らかに不要なもの(期限切れ、壊れているもの)**に限定します。親が迷うものは、無理に捨てさせません。

【計画的に】思い出品・大型家具(6ヶ月〜1年)

最も時間がかかり、精神的にも負担が大きいのが、この段階です。

しかし、焦る必要はありません。親と一緒に、ゆっくりと進めましょう。

写真・手紙のデジタル化

□ 写真アルバム

  • まずは親と一緒に見ながら、思い出話を聞く
  • 「代表的な写真」を選ぶ(全部は残さない)
  • スキャンしてデジタル化(スマホアプリでも可能)
  • データは複数バックアップ(クラウド、USBメモリ等)
  • 元の写真は、厳選したもの以外は処分

□ 手紙・年賀状

  • 故人からの手紙は数枚だけ残す
  • 年賀状は直近3年分のみ
  • 子どもからの手紙・絵は写真に撮って保存

□ ビデオテープ・カセットテープ → ダビング業者に依頼してデジタル化

家具の配置見直し

□ 介護ベッド設置を想定した配置

  • 寝室に介護ベッドが置けるスペースがあるか
  • ベッド周りに介護者が立てるスペース(最低60cm)があるか
  • 寝室から玄関まで車椅子で移動できるか

□ 大型家具の処分

  • 使っていない婚礼タンス、食器棚
  • 壊れたソファ、古いベッド
  • 大型のテレビ台、本棚

→ 粗大ゴミ回収、リサイクル業者、買取業者を活用

供養が必要なもの

□ 仏壇・神棚

  • 今後も供養を続けるか、家族で話し合う
  • 処分する場合は、菩提寺や神社に相談
  • 小型の仏壇に買い替える選択肢も

□ 人形(雛人形、五月人形、日本人形) → 人形供養を行っている寺社に依頼

□ お守り、お札、数珠 → 神社やお寺に返納

親が納得する「残す基準」

ここで重要なのが、「どれを残すか」の基準を親と一緒に決めることです。

以下のような基準を提案してみましょう。

基準1:1年以内に使ったか 「この1年で一度でも使った?」という質問をベースに判断します。

基準2:思い出の「代表選手」だけ残す

  • 写真は100枚まで
  • 手紙は10通まで
  • 人形は1体だけ

全部を残すのではなく、「一番大切なもの」だけを選ぶことで、親も納得しやすくなります。

基準3:子世代が本当に欲しいものをリスト化

「これ、私がもらってもいい?」 「これは兄が欲しがってたよ」

子世代が欲しいものは、親も喜んで譲ってくれます。逆に、誰も欲しがらないものは、処分しやすくなります。

事前に兄弟姉妹で「欲しいものリスト」を作り、親に伝えましょう。

実践のポイント

この段階は、親の感情に最も配慮が必要です。

一つ一つのモノに、親の人生の記憶が詰まっています。「これは結婚した時に買ったもの」「これはあなたが生まれた時のもの」――。そんな思い出話を聞きながら、ゆっくりと進めましょう。

そして、「捨てる」ではなく「次に引き継ぐ」という視点を持ちます。

「この着物、私が着てもいい?」 「この食器、孫に見せたいから写真に撮っておこう」

そんな言葉が、親の心を軽くします。

プロに任せるべき判断ライン

ここまで、自分たちでできる整理の方法をお伝えしてきました。

しかし、全てを自分たちで行うのは、現実的ではないケースもあります。以下のような場合は、プロの力を借りることを検討しましょう。

判断ライン1:一軒家丸ごとの場合

一軒家の片付けは、想像以上に大変です。

押し入れ、納戸、倉庫、屋根裏、庭――。全ての場所を整理し、不用品を処分するには、膨大な時間と労力がかかります。

自分たちでやる場合の目安時間

  • 1DK・1K:2〜3日
  • 2DK・2LDK:4〜7日
  • 3DK・3LDK:1〜2週間
  • 一軒家:2〜4週間

これは、毎日作業できる場合の時間です。仕事をしながら、週末だけ作業する場合は、この数倍の期間がかかります。

また、大型家具や家電の運び出しは、素人には危険です。階段からタンスを降ろす、冷蔵庫を運ぶ――。腰を痛めたり、怪我をするリスクがあります。

判断ライン2:ゴミ屋敷・汚部屋化している場合

残念ながら、実家がゴミ屋敷化、汚部屋化しているケースも少なくありません。

認知症の進行、うつ病、セルフネグレクト――。様々な理由で、親が片付けられなくなることがあります。

この場合、以下のような問題があります。

  • 悪臭、害虫、カビの発生
  • 衛生面のリスク(食中毒、感染症)
  • 近隣トラブル
  • 精神的ショックで家族が作業できない

特に、衛生面のリスクがある場合は、プロに任せるべきです。専門業者は、適切な防護具を着用し、消毒・除菌も行います。

判断ライン3:親が物を捨てられない性格

「もったいない」「いつか使う」「捨てるのはかわいそう」

親がこのタイプの場合、家族がどんなに説得しても、片付けは進みません。そして、強引に捨てると、親子関係が悪化します。

このような場合、第三者であるプロが入ることで、スムーズに進むことがあります。

「業者の人が、『これは処分した方がいい』って言ってるよ」

家族の言葉よりも、専門家の言葉の方が、親は納得しやすいのです。

判断ライン4:遠方で自分では対応できない

親の実家が遠方にある場合、頻繁に通うことは困難です。

交通費、宿泊費、時間――。全てを考えると、「自分でやる」方が、かえって高くつくこともあります。

特に、以下のような場合は、プロに任せた方が効率的です。

  • 実家まで片道3時間以上かかる
  • 仕事が忙しく、休みが取れない
  • 小さな子どもがいて、長期間家を空けられない

判断ライン5:故人の遺品整理

親が亡くなった後の遺品整理は、精神的に最も辛い作業です。

悲しみの中で、大量のモノと向き合い、一つ一つ判断する――。心身ともに疲弊します。

また、四十九日までに実家を片付けなければならない、相続の手続きを進めなければならない、など時間的制約もあります。

この場合、無理をせず、プロに任せることも選択肢です。

遺品整理のプロは、遺品の扱いに慣れており、供養が必要なものの処分方法も熟知しています。貴重品や重要書類の捜索も、丁寧に行ってくれます。

判断ライン6:大型家具・家電の処分

タンス、ベッド、冷蔵庫、洗濯機、エアコン――。

これらの大型家具・家電の処分は、自治体の粗大ゴミ回収では対応できないことも多く、自分で運び出すのは危険です。

また、家電リサイクル法の対象品目(テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン)は、リサイクル料金を支払い、指定の場所に運ぶ必要があります。

時間と労力を考えると、プロに任せた方が圧倒的に楽です。

「プロに頼むのは、もったいない」

そう思うかもしれません。しかし、自分たちでやろうとして、途中で挫折し、結局プロに頼む――。そのケースが非常に多いのです。

それならば、最初から適切にプロの力を借りることで、時間も労力も、そして精神的な負担も軽減できます。

次の章では、実際にプロに依頼する際のポイントを詳しく解説しますが、まずは「自分たちでできること」と「プロに任せるべきこと」を、冷静に見極めましょう。

この記事を書いた人

野尻 嘉昭

こんにちは!株式会社かめの幸カンパニーの野尻 嘉昭です。

「変わっているね」とよく言われる我が社の名前は、亀のように永く続くビジネスと『6人』の幸せを願う思いから命名しました。私たちは、千葉県印西市を拠点に、不用品撤去業務を主に手がけています。15年間以上の経験をもち、松戸店、新宿店という実店舗での相談も受け付けています。業界で実店舗を構えるのは珍しいかもしれませんが、私たちのサービスの透明性と顧客の安心感を大切にしてきました。

私が特に心掛けているのは、お客様、地域住民、社員、その家族、そして協力会社とその家族、この6つの要素を大切にすること。これらを大事にしてこそ、私たちのビジネスが亀のように永く続くと信じています。

私の経験や知見を通じて、皆さまに役立つ情報をお届けします。どうぞよろしくお願いいたします!